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東京高等裁判所 平成8年(く)327号 決定 1997年1月21日

少年 G・M(昭和52.4.29生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣意は、少年本人作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

二1  少年の主張は、要するに、次のようなものである。すなわち、原決定は、罪となるべき事実1として、少年が、A及び氏名不詳の女と共謀の上、B子の交際相手であるCから金員を喝取しようと企て、平成8年10月28日午後6時ころ、Cを呼び出し、同日午後9時10分ころ、同人に対し、Aにおいて、Cの髪をつかんでその乗車する普通乗用自動車から引きずり降ろそうとするなどの暴行を加え、「お前いくら持っているんだ。本当に持ってねえのか。本当の事を言うのは今だぞ。」などと脅迫して金員の交付を要求し、もしこの要求に応じなければ同人の身体、財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ、その場で同人から現金4,000円を交付させてこれを喝取し(罪となるべき事実1の(1))、右犯行に引き続き、同日同時刻ころ、同所において、同人に対し、Aにおいて、「もっと金を何とかできないか。今、無人くんというのがあるよなあ。10万円持ってこい。持ってこなければ車がなくなると思え。」などと脅迫し、さらに、同日午後11時30分ころ、Aにおいて、「明日の昼12時にこの場所でいいから10万円持ってこい。」などと申し向けて金員の交付を要求し、もしこの要求に応じなければCの身体、財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ、その場で同人に現金10万円を交付する旨の約束をさせたが、同人が警察に届け出たためその目的を遂げなかった(同1の(2))旨の事実を認定しているが、少年には、Cから金員を喝取しようという意思はなく、その旨Aらと共謀したこともないから、原決定には重大な事実の誤認があるというのである。

2(一)  そこで、関係記録を調査して検討すると、関係各資料に照らし、次のような事実が認められる。すなわち、

(1) 少年は、右10月28日午後、静岡市○○××番地の×所在のD(当時19歳)方を訪れ、遊び仲間の同人や、その友達のA(当時18歳)、同人の女友達(年齢19歳くらい)とともに遊んでいた際、少年の妹の友達として知っているB子(当時17歳)を呼び出すことになったこと、少年やDらは、かねてからB子が女の子を紹介してやると言っていたのに、同女が一向にその約束を果たそうとしなかったことから、同女を問い詰めようと考えていたこと、そして、同日午後3時半ころ、少年が、電話でB子を右D方に呼び出したこと、なお、少年は、A及びその女友達とはこの時が初対面であったこと

(2) 少年は、同日午後4時ころ、B子が右D方にやって来たので、Aらと一緒に、B子を右D方近くの駐車場に連れて行ったが、一緒に来たAの女友達が、B子に対し、「むかつく」などと言いながら、その顔を殴打したのを切っ掛けにして、少年やAも、B子の顔を手で殴打するなどしたこと、引き続き、少年は、同日午後4時50分ころ、同市○△××番地の×所在の○○団地×××号の少年方にB子を連れて行き、少年や、そのころ少年方にやって来た少年の友達のE(当時16歳)において、B子に対し、女の子を紹介すると言っておきながらなぜ約束を守らないのかなどと文句を言い、Aやその女友達らも加わって、こもごも、B子の顔面等を手拳で殴打したり、タバコの火を同女の手に押し付けるなどの暴行を加えたりしたこと、なお、同女は、少年やEとは面識があったが、Aやその女友達とは初対面であったこと

(3) 少年は、右少年方においてB子に暴行を加えた際、同女の持っていた写真から、同女がC(当時22歳)と付き合っていることを知り、自らB子に指示して、Cに電話を掛けさせ、同人を同市○□××番地の×先の○○高校付近に来るように呼び出したこと、そして、少年は、Aの運転する車にB子を乗せ、D、E及びAの女友達と一緒に同車に同乗して、同日午後6時ころ、右○○高校付近路上に赴いたこと、Cも、右呼出しに応じて、自分の車で右○○高校付近路上にやって来たこと、同人は、少年らとは、この時が初対面であったこと

(4) 少年は、Cの運転する車に同乗し、同人に行く先を指示するなどして、同日午後9時10分ころ、同人を、同市△○××番地の×所在の○○工場の駐車場に連れて行ったこと、Aの女友達及びEは、B子とともに、Aの運転する車に乗り、Cの車に追随して右駐車場に赴いたが、Dは、途中で少年らと別れて帰宅したこと、なお、少年らは、右駐車場に向かう途中、静岡県清水市○○××番地所在の材木置き場に立ち寄った際、その場で、少年やAの女友達において、B子の顔を手で殴打するなどしたこと、その際、Cも、近くでこれを見ていたこと

(5) Aは、右工場の駐車場に到着後、同所において、その女友達とともにCの車の運転席横に近寄り、同運転席に座る同人に対し、「すげえーむかつく野郎だなあ」などと言いながら、その胸倉をつかんだり、髪の毛を鷲づかみにして、車から引きずり降ろそうとするなどの暴行を加えたこと、そして、Aとその女友達は、右運転席にとどまるCに対し、「お前いくら持っているんだ」と尋ね、同人が、「今持っていないんです」と答えると、さらに、「本当に持ってねえのか。本当のことを言うのは今だぞ」などと申し向け、その場で、同人から、所持していた4,000円(千円札4枚)を出させて、Aの女友達がこれを受け取ったこと

(6) Aは、その場で、右運転席に座っているCに対し、さらに、「もっと金を何とかできないか。今無人くんというのがあるよなあ」などと申し向け、同人が、「今働いている会社の社長に言って給料前借りをしてもらうから」と答えると、「10万円持ってこい。持ってこなければ車がなくなると思え」などと言ったこと、その際、Aの横にいた少年も、Cに対し、「本当に大丈夫、ちゃんと用意できる」などと言ったこと

(7) 少年は、Cの車に乗り込み、同人に指示して、右工場の駐車場から静岡市□○×丁目×番××号所在のパチンコ○○の駐車場に連れて行ったこと、そして、少年は、同日午後11時半ころ、同所において、Cから、「時間も遅いし、明日ちゃんと10万円社長に言って借りなければならないから」と言われ、Cの車を降りて、Aの車のところに行ったこと、それに引き続き、Aが、Cの車のところにやって来て、同人に対し、「明日の昼12時にこの場所でいいから、10万円持ってこい」と言ったこと、その後、同人は、少年らと別れて帰宅したこと

(8) 少年は、同月29日午後0時20分ころ、Aの女友達とともに、Aの運転する車に乗って、右パチンコ店の駐車場に赴き、車から降りて、すでに同所に来て待っていたCに近づいて行き、同人に「悪いねえ」と話し掛けたが、同人から通報を受けて右現場で待機していた警察官らに、恐喝未遂の現行犯人として逮捕されたこと、なお、Aは、少年が逮捕されたのを見て、直ちに乗っていた車を発進させて、Aの女友達とともにその場から逃走したこと

(9) A及びその女友達は、Cから受け取った右4,000円につき、その分け前などを一切少年に渡していないこと

などの事実が認められる。

(二)  右(一)認定の各事実を総合すれば、まず、Aとその女友達が、Cから金員を喝取することを共謀の上、同人に暴行脅迫を加えて金員を要求し、これに応じなければ同人の身体、財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ、同人から、4,000円(千円札4枚)を交付させてこれを喝取した後、さらに引き続き、同人に脅迫を加えて、10万円を喝取しようとしたが、これを喝取するに至らなかったことは明らかである。

そして、少年としても、Aらが、Cに対し、「もっと金を何とかできないか」とか、「10万円持ってこい。持ってこなければ車がなくなると思え」などと脅迫して10万円の交付を要求した時点においては、AらがCに暴行脅迫を加えて同人を畏怖させた上、さらに引き続き、同人を脅迫して10万円を喝取しようとしている状況を認識しながら、同人から金員を喝取する旨Aらと意思を相通じて共謀を遂げており、かつ、右(一)の(6)及び(8)認定のとおり、自らも、Cに対する金員喝取の実行行為の一部を行ったことは、十分に肯認することができる。

3(一)  (1) ところで、少年は、司法警察員(平成8年10月29日付け(2通)、同年11月1日付け、同月3日付け及び同月6日付け(8枚のもの))及び検察官(2通)に対する各供述調書中で、次のような趣旨の供述をしている。すなわち、自分は、以前にB子から、女を紹介すると約束されたのに、一向にこの約束を果たさないなど、B子に嘘をつかれていたことに腹が立っていたので、B子をDの家に呼び出し、その家に来ていた名前を知らない男(A)とその男の女友達らと一緒になって、B子に暴行を加えたりし、引き続き、B子を連れて、名前を知らない男らと一緒に、自分の家に行った。自分の家には、Eもやって来た。自分は、B子のバッグの中を調べたら、B子の男友達(C)の写真があり、高級車のスカイラインに乗っているという話であったので、B子の男友達はお金を持っているだろうと思った。そこで、自分は、金がなかったこともあって、Eや、名前を知らない男とその女友達らと相談し、B子の男友達から金を巻き上げることにして、B子に電話をさせて男友達を呼び出し、Eや名前を知らない男らと一緒に、B子を連れて自宅を出て、○○高校近くでB子の男友達と落ち合い、さらにB子やその男友達とともに、2台の車に分乗して、清水市の材木置き場に行ったりした。名前を知らない男は、B子の男友達に、いくら金を持っているのか尋ねており、B子の男友達は、6,000円くらい持っているなどと返事をしていた。その後、静岡市内に戻ってから、名前を知らない男が、B子の男友達から4,000円を恐喝しており、この金は、名前を知らない男の女友達が受け取り、名前を知らない男が自分の物にしていた。さらに、名前を知らない男は、B子の男友達に、10万円用意しろなどと言っていた。自分は、名前を知らない男から、分け前として4万円あげるがら、明日の午後0時ころまたパチンコ○○の駐車場に来てくれと言われた。自分は、翌日、車で迎えに来た名前を知らない男やその女友達と3人で、パチンコ○○の駐車場に行き、自分が車から降りて、B子の男友達のところに行ったところ、警察官に捕まってしまった。B子の男友達に暴力を振るったのは、名前を知らない男らで、自分は、B子の男友達には暴力を振るってはいないし、脅迫もしていない。少年は、以上のような趣旨の供述をしている。

(2) ただし、少年は、司法警察員に対する同月6日付け供述調書(添付図面も含めて9枚のもの)中では、右4,000円については、名前を知らない男から、千円札4枚を見せられ、「あいつから4,000円取った」と言われて、B子の男友達を脅かして取ったんだなと思った旨の供述をしている。

(二)  ところが、少年は、原審審判廷においては、Cに対する10万円の恐喝未遂の事実に関し、自分は、Cに対して脅迫や暴行はしておらず、共犯者から4万円やると言われてついて行き、車を降りたところで警察に逮捕されたが、自分から脅し取るつもりはなかったと述べ、また、Cに対する4,000円の恐喝の事実に関し、自分は、Cから4,000円を取ったことは知らなかったなどと述べて、Cから金員を喝取する意思や、その旨Aらと共謀したことを否認する趣旨の供述をするに至っている(なお、少年作成の同月30日付け陳述書中には、自分は、あらかじめAとの間で、Cからお金を脅し取ることを相談していたわけではなく、いきなりAが、お金のことを言い出したので、まずいなと思ったが、途中で抜けることができなかったなどという趣旨のことが書いてある。)。

4  そこで検討するに、まず、前記2の(一)認定の事実関係のもとでは、もともと、A及びその女友達が共謀して犯した、Cに対する10万円の恐喝未遂の罪と、その直前の同人に対する4,000円の恐喝(既遂)の罪とは、包括一罪の関係に立つものというべきである。そして、少年は、前記2の(二)でみたとおり、Cに対する右10万円の恐喝未遂につき、A及びその女友達とその旨の共謀を遂げた上、自らもその実行行為の一部を行っていたことが客観的に明らかである。そうすると、たとえ、少年が、AらがCから右4,000円を喝取したことには全く関与しておらず、したがって、少年の負うべき責任の範囲は、右10万円の恐喝未遂の限度にとどまる場合であっても、客観的には、Cに対し、右4,000円についての恐喝の罪と右10万円についての恐喝未遂の罪との包括一罪に当たると評価される行為があったとみることができるのであり、少年は、そのような包括一罪の一部に共同正犯として加功したものと認められるのである。

のみならず、前記3の(二)掲記の少年の原審審判廷における供述についてみると、少年は、B子の男友達であるというだけで、それまで全く面識のなかったCを、わざわざ呼び出した上に、Aらとともに、かなり長時間連れ回したりしているのであるが、前記2の(一)認定の各事実に照らしてみても、仮に、少年が右供述中で述べるとおり、少年にCから金員を喝取する意思がなかったとすると、少年が、何故自らCを呼び出して長時間連れ回したりするというような行動に出なければならなかったのか、納得し得るような合理的な理由を見出すことは困難である。むしろ、前記2の(一)(6)認定のとおり、Aが、Cに10万円を持ってくるよう要求した際、少年も、その場にいて、Cに対し、「本当に大丈夫、ちゃんと用意できる」と言ったというような状況などに照らすと、少年としても、具体的にどのような手段を用いるかはともかく、当初から、Cを脅すなどして同人から金員を取る意思を有しており、その旨暗黙のうちにAらとも意思を相通じていたことが強く窺われるのである。すなわち、右4,000円の恐喝の点についても、前記3の(一)(1)掲載の少年の捜査官に対する供述中、少年が、当初から、Aらとの話合いに基づき、Cから金員を巻き上げようという意図で自らB子に電話を掛けさせてCを呼び出した旨の供述部分が信用できるならば、AらがCから右4,000円を喝取するに当たり、少年がその実行行為に直接に関与していたことを認めることはできないとはいえ、少年に対し、いわゆる共謀共同正犯としてその責任を問うことが可能であると思われる。もっとも、右のような少年の供述が信用し得るかどうかについては、関係各資料を精査してみても、必ずしも明確とはいい難い。

5  以上検討した結果によれば、仮に、少年が主張するように、右4,000円を喝取した点については、これが少年の非行事実に当たらず、この点原決定の事実認定に誤りがあるとしても、少年が、Aらと共謀の上、Cを脅迫して10万円を喝取しようとしてその目的を遂げなかったとの恐喝未遂の事実(原決定の罪となるべき事実1の(2))は十分に認定できるのであり、しかも、右恐喝未遂の事実と右4,000円の恐喝の事実(同1の(1))とは、包括的に評価して一罪の関係に立つものであり、したがって、原決定の事実誤認は一罪の一部について生じたものである。加えて、右4,000円の恐喝は、少年がB子に指示してCを呼び出し、結局、AらとともにCを脅迫して10万円を喝取しようとして、実際に少年がCから10万円の交付を受けるため指示した場所に出掛け、警察官に逮捕されるに至るまでの一連の過程の中で、少年と行動をともにしていたAらが行ったものであり、その意味で、少年には、刑法上の責任はないとしても、社会的ないし道義的な責任があることはいうまでもない。

そうすると、原決定には、原決定の罪となるべき事実1の(1)に関し事実の誤認があるとして、右事実を非行事実から除いて考えても、右のようなその実質に照らし、原決定の示す要保護性の判断に影響を及ぼすようなものではなく、ひいては、原決定の言い渡した処分に何ら影響を及ぼすものでないことは明らかである。したがって、原決定には重大な事実の誤認があるとはいえないから、少年の主張は、理由がない。

三  よって、本件抗告の申立は、理由がないので、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本時夫 裁判官 岡田雄一 服部悟)

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